「非暴力運動の論理と特徴―ガーンディーの例―」
<第1班第2回研究会 (第1班・第2班合同研究会)>
■報告者 :長崎暢子 (龍谷大学国際文化学部教授)
■開催場所 :龍谷大学深草学舎8号館会議室
■開催日時 :2006年9月21日(木) 13:00-17:00
■議事録番号 :06010202
 ガーンディーの非暴力運動は、とりわけ初期における南アフリカでの活動は、ディアスポラ・マイノリティの運動としての性格を強くもつ。本報告では、この運動をマイノリティが暴力を用いずに権力の側からある程度の要求をかちとった例として位置づけ、その特徴を、彼が重視した相手との交渉(対話)に焦点をあてつつ検討した。
 南アフリカでの運動は、インド移民という数的に少数者であり、社会的に弱い立場の側での人権闘争であった。西欧の植民地権力という強大な相手に対し、「最大多数の幸福」すなわち多数決の原理の上に権利を主張することも、事実上不可能な状況にあったといえる。そうした圧倒的な力関係を背景とする闘争の経験を踏まえてか、ガーンディーの非暴力運動には権力の側に恐怖心を抱かせないような配慮が際立つ。たとえば暴力を否定するだけでなく、こちらの側の意図を相手にも公開する。逮捕、受刑など罰則を自らが引き受けるなどである。
 なかでも相手との徹底した交渉を重視する。ガーンディーによる交渉の特徴のひとつに、運動の目的とされるtruth(原語はsatya、日本語訳では真理もしくは真実)の対置がある。まず交渉に先立ち、彼は独自に事実の綿密な調査をおこなう。そのうえで相手が主張するtruthとは別の、自分たちの調査に基づくもうひとつのtruthを対置する。だがこの方法は相手のtruthを否定するためのものではない。立場により異なるtruthがあるということを示し、暴力を用いずに、交渉を通じて双方が合意できる妥協点(例えば、アジア人登録法の場合は、自発的にインド人が登録すれば、アジア人法は廃止する)を探る、言い換えれば双方が受け入れ可能なより全体的なtruthを探るのである。
 そのため交渉の目的とは相手をより理解することである。ガーンディーは交渉のなかで必ず最低限の要求を提示し、または建設的な対案プログラムをくむ。原則を除いて双方が妥協し、相手にもなにがしか(例えば、面子)をあたえるかたちで決着をはかる。権力の獲得という完全な勝利を目指すのではなく、いわば共存の要求の実現を目指すのである。こうしたガーンディーの非暴力運動は、異なる社会・文化におけるマイノリティが権力の側から永続的にかちうるものを得るための、ひとつの有効な方法であったといえる。そしてその方法は、多数決原理にもとづく民主主義がもつ矛盾―紛争―を解決する有効な方法であると考えられる。
 討論では、ガーンディーのいうtruth(satya)が指し示す内容やtruthを生み出した彼の学問的背景、またガーンディーによる交渉の仕方が現代の紛争解決においても重要な戦略となりうる可能性などが議論された。
■資料詳細 
 
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