「【2006国内シンポジウム?】華人ネットワークに見るアイデンティティの変容」
<2006年度国内シンポジウム第2弾>
■報告者 :廖赤陽(武蔵野美術大学造形学部教授)、舛谷鋭(立教大学観光学部助教授)
■開催場所 :龍谷大学深草学舎 紫英館2階大会議室
■開催日時 :2006年12月9日(土) 13時-16時
■議事録番号
報告1
「地方アイデンティティと移民ネットワーク―『僑郷』福清のケースを中心に」
廖赤陽(武蔵野美術大学造形学部教授)

報告2
「アジアにおける知的ネットワークの変容—マレーシアの台湾留学生の事例から」
舛谷鋭(立教大学観光学部助教授)

ディスカッサント:濱下武志(龍谷大学国際文化学部教授)


【報告の概要】
 国内シンポジウム第2弾(12月9日)では、「華人の移民ネットワークに見るアイデンティティの変容」と題して、近くて遠い隣国・隣人である中国系の人々の海外におけるネットワークのあり方が、グローバリゼーションという新たな波の中で、どのように変容しつつあるのか、を取り上げた。
 まず廖赤陽氏(武蔵野美術大学造形学部)は、ある華僑財閥が主導する新しい移民ネットワーク形成の動きについて報告した。中国福清地方の出身者で構成されるインドネシアの華僑財閥は、1980年代以降、1990年代を通じて、世界的な福清ネットワークの形成を積極的にすすめている。廖氏はその一例として同財閥による故郷福清への大規模投資の例を紹介しつつ、その背景には利益の追求だけでなく、インドネシアにおいて、完全に国民として受け入れられなかったという歴史的経験に基づく、生活と安全の保障に対する華僑の危機感があると指摘する。そして移住先に安住せず、ふたたび国境を越えて展開するこのトランスナショナルなネットワーク形成の動きを、移民が、特定の国民国家にアイデンティティを集約するリスクを回避するための、ひとつの防御策ではないかと述べた。
 続いて舛谷鋭氏(立教大学観光学部)は、華人の知的ネットワークの変容について、旧英領マラヤの華語文学「馬華文学」の位置づけをめぐる論争を歴史的に検討しつつ報告した。戦前から華人移民作家による現地の左翼文芸運動として発展した馬華文学は、1990年代以降、台湾留学を経験したマレーシアの華人作家らによりその在り方を否定される。舛谷氏はこの動きの背景に、マレー人優遇の言語政策下に出現した新しい世代の馬華作家、すなわち華人としてのアイデンティティを保持しつつもマレーシア国籍をもち、さらに現地を離れ海外で華語文学を執筆するといった作家らと、彼らが読者と構築する知的ネットワークを、既存の馬華文学にどう位置づけるかという問題があったと指摘する。そのうえで、舛谷氏は、彼らをも含みうる概念装置として中華文化cultural chinaが適用可能ではないかとし、今後の馬華文学のひとつの方向性を示唆した。
 本シンポジウムを通じて、歴史的に国境を越えて活動してきた華僑・華人のネットワークが、1990年代以降、出身国と移住先という2国間の関係では説明しきれない世界的な視野を持ち始めていること、それとともに新しいアイデンティティの模索が行われていることが明らかにされた。
■資料詳細 
 
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