「【SGSD研究会】移民経験をめぐる語りの戦略と重層的リアリティ:タイ・パヤオ県ドークカムタイ郡における帰国者のライフヒストリーから」
<第3班、SGSD合同研究会(第6回研究会)>
■報告者 :松井智子(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)
■開催場所 :龍谷大学大宮キャンパス 南黌102号室
■開催日時 :2007年5月26日(土)13:00-16:40
■議事録番号 :070291
【報告の概要】
松井氏は本報告において、タイ北部のある農村における帰国した現代移民による移民経験の語りをとりあげ、かれら・かのじょらが帰国後に直面する出身コミュニティの社会的文脈と、帰国者個々人の語りの戦略が取り結ぶ相互作用に注目し、その重層的リアリティを描き出した。
今日の移民研究、国際労働移動研究においては、主に2つの問題が焦点化されてきた。一つは、移民の移動パターンを実態的データ等から分析しようとする研究であり、もう一つは、移民のアイデンティティや意識調査から移民の適応/異化プロセスを解明しようとするものである。これに対し本報告では、移民の語りから見えるリアリティを、移動パターンなどの実態的側面とはひとまず独立して論じ、かれら・かのじょらによって構築されるリアリティと実態とのズレに着目し、その意味を考えている。
帰国者の出身コミュニティにおいては、かのじょらに対して、家族の生活を向上させた「孝行娘」というまなざし、あるいは「売春婦」というようなステレオタイプ化されたまなざしが向けられ、日本における周囲の日本人とのかかわり、生活といった側面は重視されない。かのじょらはそうしたステレオタイプ化された理解に対抗して、その体験を繰り返し説明しようとするが、出身コミュニティの理解を得ることはできないのである。
こうした状況下において、かのじょらが構築しようとするリアリティは村側の了解と齟齬をきたしており、それゆえに彼女らの語りは、語るほどに断片化してゆき、口を閉ざしがちになるのである。
本報告であげられた三人の女性は、実際に日本社会でそれぞれ異なる経験をし、異なるリアリティをもって帰国したはずである。しかし、それはさらに村という出身社会との相互作用として再構築される。村側のまなざしは「日本行き」を村の家族の生活向上のための「出稼ぎ」と捉え、帰国者を(経済的な)「成功者」と「敗者」に分け、移民女性を「売春婦」として蔑み、「被害者」として哀れむものである。こうした村側の視線に対することで、彼女らと村との間で揺るがされた移民経験のリアリティが、重層的に構築されている様子が本報告では描き出された。

【議論の概要】
議論では、移民の還流によって村人の「リアリティ」もまた変化していくのではないかという指摘がなされた。また、村人からの評価に加え、親兄弟からの出稼ぎに対する評価がどのようになされているかが、より重要なのではないかという指摘がなされた。
■資料詳細 
 
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