「東北タイ農村ドンデーン村における村落経済構造―Moral Economy・Political Economy論争を手がかりに―」
<2007年度第4班第4回研究会>
■報告者 :舟橋和夫 龍谷大学社会学部教授
■開催場所 :龍谷大学深草キャンパス 至心館2階パドマ大会議室
■開催日時 :2007年12月7日(金)15:00-18:00
■議事録番号 :070404
【報告の概要】
タイにおける1980年代から現在までの急速な経済成長は、国内最貧地といわれた東北部にも大きな影響を与えた。本報告は、その東北部のドンデーン村において80年代初頭と2001年にそれぞれ実施した世帯悉皆調査の結果を比較して、J・スコットの「モラル・エコノミー」論とS・ポプキンの「ポリティカル・エコノミー」論という2つの農民像を手掛かりにしながら、経済成長の村への影響を検証した。
 ドンデーン村における農業の中心は天水田稲作であり、不安定が常態であった。近年、この村は東北部の中心都市の1つであるコンケン市の近郊農村へと大きく変容した。村人の多くが、近くの工場や大型スーパーマーケットに働きにいくようになり、2001年の世帯調査結果では、農外所得が81%に至った。一方、農業分野では灌漑水路の建設や区画の拡大が進み、それまで村人の生活を不安定にさせていた干ばつの被害を減少させた。さらに、稲の新品種の導入、施肥、農薬等による増収もみられた。つまり、経済面では明らかな底上げ現象が起こったのである。
 次に村の社会関係をみてみると、Het nam ken, Kin nam kan(共働・共食)と呼ばれる相互扶助の慣行は、農業分野において今でも行われている。この慣行は特に稲作部門で顕著だが、畑作・野菜作部門でもみられる。村の農民の間では、この慣行を守ることが「望ましいこと」とされている。他方、農外所得部門において、この慣行がみられることはない。
 よって、まとめると、ドンデーン村は、稲作部門を中心とした生存維持レベルの底上げと相互扶助の慣行がみられる一方で、農外部門では相互扶助の慣行はみられず、損得勘定による行動が支配的であり、この両者からなる二律背反の状態にあるといえるだろう。

【議論の概要】
議論の中心は、生存維持のレベルを脱したと思われるドンデーン村において、以前と同様の強い相互扶助の慣行が現在でもみられるのはなぜかという点だった。同じくタイの農村部を研究する参加者からも、ドンデーン村は他のタイ農村地域と比較して強いコミュニティ意識が維持されているようだとの感想が聞かれた。報告者によると、共働・共食の慣行は、町の人たちと村人との間でも行われる。その際には、町の人たちは、実際の農作業の代わりに現金を渡し、主食のもち米を得る例が多いという。
■資料詳細 
 
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