「"Can Development Occur in a Protracted Political and Security Crisis: The Case of Southern Somalia"」
<2008年度 第2班第2回研究会>
■報告者 :Dr. Peter Little, Professor, Department of Anthropology, Emory University, and visiting Professor to the Center for African Area Studies, Kyoto University
■開催場所 :龍谷大学深草キャンパス 紫英館5階会議室
■開催日時 :2008年5月17日(土)14:00-17:00
■議事録番号 :080517-1
【報告の概要】
 リトル氏は、1980年代から今日に至るまでのソマリアの内戦背景を説明した上で、南ソマリア(Southern Somalia)地域と周辺国の貿易活動にかかるデータや現地調査の結果を手がかりに、無政府・無法地帯の地域における「発展」のあり方及び「経済活動」について、検証した。 
 
 ソマリアはイギリス(北部)、イタリア(南部)の両国によって植民地化され、宗主国同士の取引で領土に線引きがなされた。英・伊の託統治を経て元英領ソマリランド共和国、元伊領と元英領を含むソマリア共和国として独立したが、今日まで内線が続き、中央政府は存在しない状態が続く。アフリカの角(Horn of Africa)の諸国と同様に、1985年以前のソマリアは、冷戦下にあった米国とソ連の影響を大きく受けてきた。1991年に政権が崩壊して以降、北西部はソマリランド(Somaliland)として独立を宣言、内戦状況に陥り、1992年には国連による平和維持が開始されたが1995年に国連軍は平和と治安を維持できないままソマリアを撤退した。
 
 中央政府がないソマリアであるが、地域レベルでは伝統的な部族を中心とした行政機能が所在し、水や電気など生活基盤の維持などにおいて役割を果たしている。しかし、治安が安定しない現状では、住民の多くは政府の提供するサービスや物資に依存しない(Pastoralism)傾向が強い。そうすることで、政府が崩壊しても受ける打撃が少なくてすむためであり、Pastoralismの強いコミュニティでは保健衛生や栄養状況が他の地域に比して良好である。同部族や血縁のつながりは非常に強く、紛争状況になるたびに、対処するために血縁などの部族を頼って他の安全な地域に移動(mobile livelihood system)し支えあう。また、部族が経済活動の基盤となっており、家畜の販売などの貿易も部族テリトリーが基礎となっている。

 内戦で法も秩序もない悲惨な状況というイメージが強いソマリアのような国で、「development」がありうるのかと思われがちだが、実は経済活動は活発である。例えば、国家が崩壊した1991年以後、エチオピア国境での家畜の取引は2004年には5倍以上になった。近年ではドバイにソマリア人貿易商の多くが拠点を置いて貿易に従事しており、税金を支払ってもよいから、法規制の導入を求める声が高まっている。

 1985年から1991年まで、当時の政府は選挙での買収を目的に紙幣を大量に印刷し、そのため急激なインフレ状況になった。現在では、物価上昇が安定しているため、インフラの高い周辺国では、貿易に米ドルを利用することが多いが、ソマリアでは現地通貨が利用されている。
ソマリアと周辺諸国との間では、多様な商品が取引されており、内容により「Black Commodities(インフォーマル商品)」と「White Commodities(フォーマル商品)」に分類される。ソマリアに貿易を統制する法がないため、周辺国から多種多様な武器(Black Commodities)がソマリアに流入し、国内で流通するほか、ソマリアを経由して周辺国に売られている。そのため、国内で武器が自由に入手可能な状況である。White Commoditiesに該当するものとしては、ソマリア→ケニア(家畜、電化製品、衣類)、ケニア→ソマリア(Khat(嗜好品作物)、とうもろこし、小麦)、ソマリランド→東エチオピア(衣類、小麦、パスタ、砂糖)、東エチオピア→ソマリランド(山羊、羊、とうもろこし)等が主要な貿易商品である。インフォーマル経済はどの国にも存在するものであるが、ソマリアでは経済の主要部分を占めているのである。

【議論の概要】
 参加者からは、国家も経済も破綻していると思われがちなソマリアにおいて、実は民衆はたくましく、経済活動も活発であり、オルタナティブな展望への希望があることに驚く意見が多かった。日本の農村で行政に依存せずコミュニティが教育施設を開設した経験に比してソマリアでのコミュニティ機能についての質問に対しては、北部のソマリランドは同一性が高くコミュニティの組織機能が高いのに対し、他の地域では多数の部族を擁する社会であり、コミュニティとしての活動や単一政府の設立が困難である他、内戦のあまりの厳しさに人々が集まって行動すること自体が困難になったとの回答がなされた。その他、インフォーマルな貿易とフォーマルな貿易、インフレの影響、貿易や送金における住民(部族)の信頼関係のあり方等についても活発な討議がなされた。
■資料詳細 <資料1> <資料2
 
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