「環境問題とCO2排出権取引市場−金融のグローバライゼーションをめぐって−」
<2008年度 第2班第3回研究会>
■報告者 :中村尚司(龍谷大学アフラシア平和開発研究センター リサーチ・フェロー)
■開催場所 :龍谷大学深草キャンパス 紫光館3階共同研究室
■開催日時 :2008年7月12日(土)15:00-17:10
■議事録番号 :080712
【報告の概要】
地球温暖化が現実に進行しているのか、それとも長期的な気候変動の一環にすぎない現象化。既存の地球物理学が解明した範囲では、解答に必要な科学的データが極めて不十分であり、天文学、気象学、地球物理学等の分野で更なるデータの集積と解析が必要である。1972年にローマクラブが「成長の限界」で資源枯渇を警告したが、未だ資源は枯渇していない。オゾンホールの拡大やCO2以外の温室効果ガスについての議論は近年では消えつつあり、CO2だけが重視されている。『経済セミナー(2008年6月号)』の「世界に広がる排出権取引制度」では、「日本の遅れが懸念される。一国も早く日本からも制度設計を発信していくべきである(引用)」と主張されているが、なぜ制度が必要なのかを検討したい。
 
ノーベル化学賞受賞者のFrederick Soddyは、時間の経過とともに磨耗する現実の貨幣が、虚構の市場で取引することで現実の磨耗を防いでいるように見せかけるだけであり、虚構の富を形成する貨幣の役割が抑制されなければ、戦争と革命による人類の破滅をもたらすと述べた。古来、人類史における貨幣の役割は、実物経済の一環であったものが、現在社会では実在を離れて権力行使や軍事力と重なっていることが問題である。
 
銀行制度による貨幣の増殖が可能になるのは、近代ヨーロッパでの信用創造に由来する。信用創造とは、銀行がその貸付を通して貨幣請求権を発生させる現象である。その後、政府や中央銀行が通貨を発行するようになり、中銀行が公定歩合と預金準備率により通貨流通量を調整している。しかし、通貨危機や経済危機が深刻になれば、中央銀行にも対処できなくなり、信用創造の危機解決は政治にゆだねられ、政治の延長線上には軍事力が展開している。
 
第二次世界大戦以前の英印間の貿易では、経済力の強い英国側が常に貿易赤字であった。戦後のアメリカ合衆国も同様に貿易赤字が続いている。赤字は消費できるだけの経済力があることの証で、赤字継続を可能にするのが金融のグローバライゼーションを支える大量破壊兵器の軍事力である。ブレトン・ウッズ体制により世界の基軸通貨の地位を維持していた米ドルは、軍事力の強化を支えた産軍複合体制でパックスアメリカーナを築き、他の産業が衰退する中で軍事産業は成長し続けている。軍事力と基軸通貨としての経済力は大きく重なっている。
 
世界の金融危機を象徴するサブプライム・ローンは、もともと先物市場(CDS)や債権商品取引市場(CDO)の問題である。CDOの需要が増えるほど、サブプライム・ローンの貸付が増え、本当は貸してはいけない顧客に貸す状況になり、モラルハザードがおきた。さらに、CDSを引き受けていた大手投資銀行が、資金を回転させるために高いリスクをとろうとしたこともモラルハザードである。これらの問題で米ドルが暴落すれば、ユーロ、中国元、インドルピー等の後継基軸通貨が並んでいるが、他の通貨への転換はありえるのか、米軍事力に対応する単一の軍事体制が成り立つのかである。
 
CO2排出権取引市場の創造は、戦争を起こすことが困難になっている21世紀の戦争の問題と同じ状況にあり、排出権取引は虚構な市場である。CO2を排出しないという、非生産的な事業のために政府が借金をするようになり、取引市場の主導権をめぐって基軸通貨の地位が変わる可能性もある。排出権取引の日本導入についての議論はさまざまであるが、根本的な問題は、ありもしない権利を「創造」して、証券化し売買するところにある。CO2排出権を商品化し、擬制の市場で取引するようになれば、環境破壊を拡大する恐れがある。質素で倹約を美徳するアイヌのように生活することで、金融グローバライゼーションのモラルハザードに置き換えるべきである。


【議論の概要】
参加者からは、中村報告は、議論としては非常に興味深いが「CO2排出権取引市場」よりも「信用創造と金融のモラルハザード」に関する議論が中心である、金融面については理論的な整理が必要であるとの指摘がなされた。また、CO2排出権に詳しい参加者は、これまでCO2が取引されなかったのは無価値のためでなく、今後削減するためにコストを要するためであり、排出権取引にかかる制度・設計の問題として捉えるべきであると指摘した。

さらに、排出権取引を通して、これまで投資対象とならなかった森林地域に新たな投資が進む可能性があるかという質問が提示され、技術革新によるフロン削減等が低コストかつ短期間で実践可能であるのに対し、森林によるCO2吸着は生育まで長期間要し、維持管理コストが高いことが課題である等の議論が交わされた。
■資料詳細 <資料1
 
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