「フードアクセス・アセスメント:ケンタッキー州レキシントン市でのケーススタディから学ぶ」
<2008年度 第2班第4回研究会>
■報告者 :田中敬子(龍谷大学アフラシア平和開発研究センター 客員研究員、ケンタッキー大学農学部准教授)
■開催場所 :龍谷大学深草キャンパス 紫英館2階第2共同研究室
■開催日時 :2008年7月16日(水)12:30-14:10
■議事録番号 :080716
【報告の概要】
 田中氏は、2004年から2007年までの4年間にわたり、ムーニー教授とともにケンタッキー大学の授業の一環として行ってきたケンタッキー州レキシントン市におけるフードアクセス・アセスメントについて報告した。

 食をめぐる運動は、先進国における大きな市民運動のひとつである。1970年代の環境運動を起点に、グローバル化が急速に進んだ1990年代以降は、食の安全や有機野菜、地産地消などのように消費者の価値観に変化が生じている。単に安全な食品を入手する手段だけではなく、環境保全を重視した持続的農業(Sustainable Agriculture)と地域食料保障(Community Food Security)の両方を実現する公正なフードシステムの構築が必要と考える。

 本調査では、レキシントン市内に所在する食品販売店(Grocery Stores)飲食店(Restaurants)及び農民による直売市(Farmers’ Market)などを対象に、フードアクセスの質(quality)、十分な(adequate)品質の食材が購入可能か、社会格差(inequality)との関係、妥当な(appropriate)政治・活動(political actions)は何か、の観点から設問を設けた。

 調査の段取りは、?食品販売店・レストランのマッピング、?買い物籠値段調査(Market Basket survey)、?ニーズアセスメントである。マッピングでは、政府機関(保健所等)のデータ、電話帳等でデータを収集し、人口統計データやバス路線図等とともにGISに組み込んで分析した。初年度の調査では、価格を調べやすいスーパーなどに比べて小規模な店舗では調査を嫌がられることが多く難航した。2年目の調査では実際に商品を購入したが、こちらは費用がかさんだ。また、同銘柄の商品を調査対象にすることが望ましいが、実現不可能であるため、学生には類似品の一番安い商品の価格を調査するように指示した。それでも店によって安売りであったり、販売単位が異なっていたり、多量に購入すると価格が下がったりと、価格把握は困難であった。

 調査の結果、市内各地のフードアクセスの質に地域差があることが明らかになった。貧困率の高い地域にはスーパーのような安価で品揃えの豊富な店舗はないが、少し離れた地域や郊外に所在する。他方、コンビニやガソリンスタンド設置の店舗は貧困率の高い地域に集中するが、食品数は限定的で値段も高い。健康志向の販売店の商品は値段が高く、客層も限定的になる傾向がみられた。

 市内では自家用車での買い物が前提とされているが、貧困率が高く、黒人居住者が集中する地域では、自家用車率が低いため、車を持たない貧困層は、スーパーに行く交通手段がない、若しくは限られている。さらに貧困地域内の店舗では、購入可能な品数や量が限られていたり、品質に問題があったり高価である傾向が強い。また、地域内の店舗のオーナーが他人種であったり、営業時間が決まっていない等買い物しにくい環境であった。これらのことから、フードアクセスと社会格差には相関性があるといえよう。

 地域ごとの食品価格は、最大・最小・平均の3値を確認した。地域ごとの差異で見ると、最小と最大値の格差が大きく、価格にばらつきが見られるものの、貧困率の高い地域の売価が低い傾向が確認された。

 米国と日本では、地理的・経済的・社会文化的な背景の違いから、フードアクセスをめぐる環境も異なっている。しかし、高齢化社会を向かえ、食の安全への意識が高まっている中で、フードアクセスの問題を考える必要があるといえよう。また、学生が多い町でも、学生が地域と接触する機会は少ない。このような調査を通じて学生と地域のかかわりが増えることになり、本調査手法は、大学教育のツールとしても効果的である。

【議論の概要】
 参加者からは、車がないと食品の購入ができない米国と日本社会の相違はなぜ生じるのか、なぜ貧困地域にはスーパーがなくて郊外に設置されているのか、スーパーの品揃えの傾向によって利用者層は異なるのか、ガソリンスタンドが貧困地域に集中している理由はなぜなのか等の質問が相次いだ。また、有機野菜や産直といった取り組みが広く一般消費者に普及しつつある日本の状況と、レキシントン市でのFarmers' Marketの開催場所及び開催頻度、利用者層について比較するなど議論が深まった。

Community “Food Security”の”Community”の定義づけについての議論では、田中氏は、米国内でも地域の結束が強いところとそうでないところがある、今次調査で協力を得ているNPOメンバーが認識する「地域」を定めて調査することにより、NPOの考える地域が理解できる、さらに調査対象地の住民が認識する「地域」についても把握していくことで、地域を理解していきたいと返答した。


※田中・ムーニー両氏の執筆による調査報告書は以下のケンタッキー大学のウェブからダウンロードできます。
http://www.uky.edu/Ag/CLD/doc/CommunityFoodAssessmentReport04-07.pdf
■資料詳細 <資料1> <資料2
 
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