「【国際セミナー】地域資源管理に対するグローバル化の影響と紛争解決」
<国際セミナー>
■報告者 :Louise Fortmann(カリフォルニア大学バークレー校教授)、北原淳 (龍谷大学教授)、Raymond Jussaume, Jr (ワシントン州立大学教授)
■開催場所 :龍谷大学大宮キャンパス 清和館3F
■開催日時 :2008年6月29日(日) 10:00-17:00
■議事録番号 :080629-1
【セミナーの概要】
本国際セミナーは、2008年2月23−24日に開催された国際シンポジウム「悲鳴を上げる資源―アジア・アフリカにおける地域共同体の持続可能性」のフォローアップセミナーとして開催したものである。前回のシンポジウムでは、アジア・アフリカの自然資源、資源管理の比較史的展望、ストレス下にある水資源、新技術・システムの地域食料資源への影響、石油基盤経済の限界にかかるセッションが持たれ、歴史的背景から現在の認識まで、グローバル及び地域的なレベルを対象としたのに対し、今次セミナーでは、経済のグローバル化が地域コミュニティのレベルでの資源管理に与えるインパクトに焦点を当てた。地域社会は、利用可能な資源を活用して取り巻く環境に適応し、地域発展の持続性にかかるリスクを最小限にする能力を維持しているという仮説に基づき、アジア、アフリカ、日本の資源管理をめぐる現状とリスク削減に向けた取組みの比較及びグローバル化への適応可能性等についての議論がなされた。

ワシントン州立大学のRaymond Jussaume, Jr.教授は、基調報告1「Extra-Local Constraints on Community Efforts to Sustainably Manage Local Resources」において、(1)地元資源を活用し戦略を立てて地域開発を進めることが重要、(2)農産物や水など、資源や商品化の連鎖(Resources/Commodity Chains)分析が重要、(3)グローバル化の影響は地域や文化的背景等によって多様である、という想定に基づいて、地域発展を成功裏におさめるためには、場合によって地域外の政治・経済・文化的な関係に統合されていくため、グローバル化についての理解が不可欠であると述べた。
 さらに、ジュソーム氏はグローバル化が(1)新しい事象か、(2)西洋化か、(3)国家の衰退につながるか、(4)不平等の元凶か、既往資料やデータを用いて分析し、グローバル化の大きな傾向を明示した。21世紀の地域社会は外部の影響を避けることはできず、単独であり続けることは不可能である。特に労働力は地元に留まり、資本は世界的であるということは地域に大きなジレンマとなる。これに対処するためには、地域・グローバルなアクターの力関係を認識した上で、地域の特性(商品、立地など)を検討した戦略を立てるべきである。万能の戦略はあるはずがなく、むしろ、グローバルなアクターにつながるのか、地域自立型の戦略を選ぶのか、公平さと成長のどちらを重視するか等について、地域住民とともに考えて戦略を立て、それが機能しているか常に見直すことが必要だろう。グローバル化の中で、地域は、「Think Globally, Act LocallyとThink Locally, Act Globally」に加えて、「Think Dialectically, Act Self-Reflectively」であることが求められている。

基調報告2「Public Management of Local Resources in Thailand: A Historical Perspective for the Role of Government and Community」で、龍谷大学の北原淳教授は、タイの森林管理を事例に、政府と住民の関係について述べた。
 資源管理には、(1)土地・資源に対する人口、(2)人口移動と居住形態、(3)中央と地方の関係、(4)国家の財源基盤等の要素が影響し、管理の「厳しい(tight)」日本と「緩やか(loose)」なタイのような相違が生じる。土地・資源あたりの人口が多く、新開拓地がなく、居住者が安定し、中央が末端村落まで管理し税税収を得る地域では管理が厳しい。
 タイの場合、19世紀以降の近代政府は国内の土地を私有地と公有地に分類したが、住民の利用状況とは合致しておらず、所有者と利用者住民の対立を引き起こした。私有地では、登記による所有権とともに、フロンティアの無主地での住民の伝統的な「一時的占拠」としての利用権が併用された。20世紀初期に試行された森林保全法では、政府は公用地(森林)を囲い込んだが、実際には住民の利用が認められていた。しかし、1920年代にはフロンティアの開拓が進んで資源枯渇が顕著になり、政府は無主地の共有地化と私有地化の明確化を図った。住民は既に対象となる共有地を占有している場合が多く、共同管理への関心が低かったほか、登記に関する知識がなかった。1960年代には国家森林保全法、国立公園法などが施行され、1990年代には保護林地が詳細に分類される等、国家による地域資源の管理が強まった。現在、公有地で認められている住民の利用内容は、墓地、信仰上の聖地、公共の貯水池や道路等である。調査対象地では、共有利用地は少なく、寺など信仰の場以外は政府に管理され、農地・森林としての共有地は皆無であった。
 西洋的な森林管理手法が主流となり、地域の自然資源が減少し、住民の生活スタイルと資源利用が変容し、資源管理を担う青年層が流出している状況は他の東南アジア諸国に類似する。時代や場所を考慮しつつ、複数の管理主体(住民、NGO、政府等)の協力による資源の管理・保全方法を模索する必要がある。

基調報告3「The Role of Participatory Research in Local Resource Management and Community Development」において、カリフォルニア大学バークレー校のLouise Fortmann教授は、ルワンダをジンバブエの事例をもとに、参加型調査の意義と効果について述べた。参加型調査は、あらゆる人によって創造された知識や経験を尊重する姿勢に特徴づけられる。「真実」を包括する知識はなく、むしろ知識は人々の多様な経験等から集約されるため、地域社会の経験の集約に効果的な参加型調査が有用である。
 従来の科学(Conventional Science)と市民の科学(Civil Science)は、より良い知識を創出し世界に貢献することを目的とする。通常、正規教育を受けた研究者が専門機関で一定の実験・観察手法を用いるのが科学的手法で、これに基づく結果が信頼できる知識とみなされる。発見事項は他の科学者によるテストや出版を経て一般化が図られるが、その知識は必ずしも地域の問題解決に適用できるものではない。それに対し、市民科学者は、地域の題解決のために地元社会や環境を背景に発展した実験・観察技術を断続的に利用するが、これらの知識は、一般化されることなく地元に留まりがちだ。
 1つ目の事例は、豆の根腐れ問題を背景に、植物病理学者Fobin Burucharaがルワンダの豆作農家女性と実施した参加型品種選定で、(1)従来の科学的実験で有効な36種を選定、(2)これらを参加農家が栽培して10種を選定、(3)各農家が10種を栽培して最良品種を選定、という3段階を経た。優良品種選定の理由は、根腐れへの免疫、痩せた土地での生育、収量、味の良さ、調理時間の短さ等であった。従来の品種改良では、農民の志向に必ずしも合致していなかったのである。
 2つ目の事例では、ジンバブエで実施した森林利用と管理に関する参加型調査で、地域にある122種類の樹木についての調査を行ったほか、性別と豊かさ別に階層化されたグループで、植生の変化を地図に描いた。専門資格を持った人だけが知識を持っているとみなされがちであるため、市民科学者の知識を記録することが重要である。
 研究者や教師は、(1)世界資本や援助機関が自然資源や地域住民の資源アクセスに与える影響を明らかにし、(2)「専門家」や「専門的知見」を構成する要素や地元で創出された知識につき、学生に伝え指導し、(3)自らの調査と出版につき再考するべきである。謙虚な姿勢であるか、地域住民との信頼関係を作る時間を取れているか、地元の知識に信頼をおいているか?研究者が意識を変える必要がある。

Round Table Discussionでは、日本福祉大学の斉藤千宏教授を座長に向かえ、3名のContributors (当初予定していた近畿大学の池上氏はやむを得ない事情で欠席となった)による報告と基調報告へのコメント・質疑を含む活発な議論がなされた。カリフォルニア大学デイビス校のIsao Fujimoto教授はカリフォルニア州内の水利権と貧困の密接な関係につき地理情報を用いて明らかにし、神戸大学の福井清一教授は、グローバル化の中で発展途上国の伝統的な経済活動は法的・組織的なものに変容するのか、開発援助における参加型調査手法の利用可能性等の疑問を投げかけた。国立環境研究所の青柳みどり主任研究員は、先住民やメディア、自治体、住民組織等と連携しているアジア太平洋地域環境革新事業(APEIS)の事例を紹介した。

最後のWrapping-up Sessionでは、ケンタッキー大学の田中敬子准教授を座長に、一橋大学の黒崎卓教授、龍谷大学アフラシア平和開発研究センターリサーチフェローの中村尚司を向かえた。黒崎氏は、パキスタンで実施されたJICAプロジェクトとインド農村での児童労働削減への取り組みを事例に、よりよい地域発展のためには学際的研究と地域住民と地元・外部の専門家の関係構築が必要であり、質的インパクトを評価するためには参加型アプローチが有効であると結論付けた。中村氏は、現在の社会化科学は、国家の枠組みに位置づけられ、客観性重視のニュートン物理学に基づくため、国家の枠組みを超えた多様化する問題に対応できないと指摘した。グローバル化の進む21世紀には、学問も国家の壁を取り払う必要があり、これまで調査対象であった住民は、自ら社会への理解を深めて自分たちの望む調査デザインを構築し、参加型調査はいっそう重要な意味を持つだろうと述べた。

 アジアやアフリカからの留学生を含む参加者からは、研究活動とアドボカシーのような行動は両立しうるか、研究結果は地域住民にどのように共有していくべきであるか等の疑問が投げかけられ、基調報告者・発表者を含めた活発な討議がなされた。
■資料詳細 <資料1> <資料2> <資料3> <資料4
 
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