「国連人権機構改革がアジア地域紛争解決に及ぼす影響に関する研究―軍性奴隷問題を焦点に―」
<第1班第2回研究会>
■報告者 :戸塚悦朗(龍谷大学法科大学院教授)
■開催場所 :龍谷大学瀬田学舎智光館B102共同研究室
■開催日時 :2008年7月4日(金)16:30-18:30
■議事録番号 :080704
【報告の概要】
 戸塚氏は軍性奴隷問題に焦点をあて、問題解決に向けた国連の手続と、国際紛争解決と人権擁護に取り組む国連人権機構の有効性を指摘した。またその中で、国際的イシューとして議題設定(アジェンダ・セッティング)に成功したNGOの立場から、国連人権機構の多国間関係における機能を評価した。さらに国連人権機構改革について、?人権委員会(Commission of Human Rights)の廃止にともなう人権理事会(Human Rights Council)の構築(2006年)と、国連総会の下に「理事会」という名の主要委員会を創設する、格上げという理事会の形式、?普遍的定期的審査(UPR;Universal Periodic Review)という、国連全加盟国の人権状況を普遍的に審査する新たな制度の構築について取り上げられている。本報告の目的は、国連人権機構改革がアジア地域紛争解決に及ぼす影響についての制度的分析であるが、アジアにおける人権侵害への対応の問題点として、アジア地域人権機構の不在(ASEANの動向を除いて)を指摘しており、アジア地域の紛争解決に対して、国連の多国間人権機構による人権擁護の機能に期待を寄せている。
 軍性奴隷問題の法的責任に対する取り組みにおいては、国連における二つの手続、?条約によらない憲章上の手続(テーマ別特別手続を含む)、?人権条約による手続、が例示された。これらに加え、ILO等の国際専門機関や米国議会等、諸外国の議会による勧告という紛争解決促進のための国際手続も有効に機能しているとして、具体的に説明された。特に国連における手続の中で、「従軍慰安婦」を軍性奴隷(sexual slavery)として概念規定することにより、強制労働から女性への暴力、国際人道法違反に至るまで幅広い国際法の適用を可能にした点に注目した。こうした軍性奴隷の概念規定と国際法の実践的適用は、国連人権委員会の機関(特別報告者)等により作成された報告書により明確にされた。
 しかしながら、軍性奴隷問題の最大の焦点は、国外からの圧力に対する日本政府の対応である。戦後のサンフランシスコ平和条約及び二国間条約による対日請求権の放棄等を根拠として、法的責任を否定し、立法解決を回避する政府の対応に、国際的な圧力がどれだけ影響力があるのか、又、問題を回避しようとする日本側の諸要因について幅広く議論がなされた。

【議論の概要】
 討論においては、軍性奴隷問題の早期解決に必要なのは、歴史認識、市民、組織、政府の連動ではないかという見解が示された。これに対し、第二次大戦の処理は、敗戦時の日本軍・政府による証拠隠滅による情報収集・調査の困難さ、占領下の占領軍の政策などの事情から複雑であるとの意見も出された。また軍性奴隷問題に関する国際法の適用に関連して、奴隷条約の歴史的背景や、西欧的国際法秩序とアジアの法秩序の対立という視座の必要性が認識された。その中で国連システム、特に安保理の意思決定過程における、アジア・アフリカの非常任理事国の影響力の限界が指摘されたが、他方で国連予算の配分の増大や、国際人権機構の特別手続における地道な活動と発展や人権高等弁務官事務所の拡大など、アジア・アフリカ諸国の影響力も相当反映しており、国連は人権分野では武力行使にたよることなく、一定の成果を収めてきており、将来的にはアジア・アフリカに適用可能な国連の人権基準と手続の充実が期待できるのではないか等が議論された。また事例として挙げられた、日本の精神医療における人権侵害問題や軍性奴隷問題に関する、国連の多国間人権機構による取り組みの成功を踏まえ、現行システムの一定の有効性についても論議がなされた。
 軍性奴隷問題に関しては、第二次大戦の戦争としての側面とジェンダーとしての側面の二重構造があるのではないかという指摘や、問題解決に向けては、被害者の視点とその語りが重要であり、和解に向けては被害者の意見を尊重しつつ、双方が誠実に対話をするという積み重ねのプロセスが大切であるとの意見が出された。
■資料詳細 <資料1
 
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