「移民経験をめぐる語りとそのリアリティ:タイ人女性帰国者のライフヒストリーから」
<2008年度 第3班 第1回研究会>
■報告者 :松井 智子(アフラシア平和開発研究センター 3班リサーチ・アシスタント)
■開催場所 :龍谷大学瀬田キャンパス 智光館地下B102共同研究室
■開催日時 :2008年5月10日(土)16:00-17:30
■議事録番号 :080510
【報告の概要】
松井報告では、タイ・パヤオ県の農村における帰国した現代移民女性のライフヒストリーの語りの詳細な分析によって、彼女らが帰国後に直面する出身地域の社会的文脈と、個人個人の語りの戦略とが取り結ぶ相互作用を明らかにし、国際移民という経験をめぐるリアリティが、移動先の社会のみならず、帰国後の出身地の社会においても、重層的に再構築されていることを明らかにした。
具体的には、日本から帰国した3人の女性たちが、「日本での暮らし」や「タイの家族との関係」等を語る中で、出身地域が女性帰国者に向けるステレオタイプ化された了解やまなざし―「よい娘/悪い女(売春婦)」「成功者/失敗者」など―に対し、基本的には、村側の了解に従って語ろうとしつつも、一方で、自分の了解と齟齬をきたしたとき、怒りや沈黙を含んだ対抗的な語りを実践していることを指摘した。このように、3人の女性たちの語りを引用・分析することを通して、彼女らが独自の語りを展開している/展開できないことによって、彼女らと村との間で移民経験のリアリティが重層的に構築されている様子を描き出した。

【議論の概要】
議論では、まず、フィリピンにおける類似した状況が指摘され、報告で取り上げられた帰国女性たちの結婚や宗教の実践について、具体的な質問がなされた。報告で取り上げられた帰国女性たちが村で結婚忌避の対象となっているか、お布施などの宗教実践によって名誉を回復するような実態があるか、等々の質問に対して、報告者は、これらがライフヒストリーだけからではうかがえない重要な論点であるとした上で、そうした実態が見られる場合と見られない場合があることを指摘し、その差異の由来と実態調査とが課題として残ると述べた。
更に、本質的な問いとして、なぜ「リアリティ」という用語を用い、「アイデンティティ」ではないのか、「リアリティ」は「構築される」ものなのか、という指摘がなされた。また、タイや北タイという地域特有の歴史的・文化的背景がどのように関連しているかも課題として指摘された。
■資料詳細 
 
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