「韓国の軍事政権下(1960-1980)におけるナショナリズム教育とその後の変化」
<第1班第4回研究会>
■報告者 :権五定(龍谷大学国際文化学部教授)
■開催場所 :龍谷大学瀬田学舎智光館B103共同研究室
■開催日時 :2008年11月21日(金)14:30-17:30
■議事録番号 :081121
【報告の概要】
 報告者の権五定氏は、韓国のナショナリズム教育の発展過程を、戦中・戦後の抵抗のナショナリズムの展開から注目し、教科書、教育政策のテクスト分析に加え、公教育における歴史認識、民族意識のイデオロギー分析を通して、諸段階に分け、体系的に捉え直した。
 第一段階は、19世紀後半のコリア半島における、帝国主義に抵抗するナショナリズムの形成と、近代的国民教育制度・教育機関の導入である。権氏は近代教育の発展の中で私立学校、特にミッション・スクールが民権主義を育成し、民族主義運動の基盤となった点に注目した。第二段階は、韓国統監府・植民地時代(1905-1945)における植民地教育とそれへの抵抗である。初期における韓国と日本の二元的歴史教育の施行、その後の皇国臣民化教育の植民地主義に対し、検定基準に満たない国史教科書の刊行に見られるように、植民地主義に抵抗するナショナリズム教育の相剋作用に焦点を当てた。第三段階は、植民地解放以降の東西冷戦期、朝鮮戦争を経て軍事政権時代に至るまでの、民族主義と民主主義が相半ばする「一民主義」の生成とその後の民族的民主主義への展開である。これには南北のイデオロギー対立下の排他的・戦闘的ナショナリズムの出現と、もう一方では公民教育におけるSocial Studiesの導入によるリベラリズムの涵養とが指摘された。ここではパトリオティズム(愛国心)を巡るナショナリズムとリベラリズムとの相剋関係が示された。
 このように、韓国のナショナリズムとナショナリズム教育の段階的整理と分析から、イデオロギーの変幻自在性ならびに国内における複数のナショナリズムの存在を特徴として導き出し、そのメカニズムとしての教育の役割を指摘した。また、軍事政権時代を高度かつ制度化(組織化)されたナショナリズム教育の施行と位置付け、その後の反動的でリベラルな変化に注目し、教育政策、教育課程・教科書、教育実践のinner criteriaに基づいた分析を通じて、韓国軍事政権時代におけるナショナリズム教育とその後の変化とそこでの教育の役割について再考察を行うことを今後の課題として示した。

【議論の概要】
 討論では、宣教よりも教育・社会活動に重点を置き成功したプロテスタント(米教会)の戦略的アプローチと、地下活動拠点としての教会や運動に対するキリスト教勢力の支持など、民族運動におけるキリスト教勢力の役割が注目された。ナショナリズムの知的基盤の強化に関し、60年、70年代の大学への知の集中が指摘され、儒教社会における知識人の位置付けなど韓国社会の文化的特殊性が問われた。ナショナリズム形成における、教育現場での神話や伝統文化の取扱いに対しては、軍事政権下の学習指導要領改正(1969年)における国史の独立と古代史、神話(檀君神話)への注目と朝鮮民族の強調が指摘された。さらに軍事政権下に反共(反北朝鮮)・親米教育を受けた386世代(1990年代に30代、1980年代に大学生で学生運動に参加、1960年代生まれの世代)とそれ以後の世代における断絶と、南北対話での柔軟な対応と反米意識への転向に対する関心が示された。一方でナショナリズムの普遍的な問題として、インド・パキスタン分離独立においても相剋ナショナリズムが認められるなど分裂国家との関連や、歴史展開の中における変幻自在なナショナリズムと現状との関連が問われた。
 
■資料詳細 
 
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