「主体化の暴力について」
<第1班第5回研究会>
■報告者 :土佐弘之(神戸大学教授)
■開催場所 :龍谷大学瀬田学舎智光館B103共同研究室
■開催日時 :2009年3月17日
■議事録番号 :090317
【報告の概要】
 報告者の土佐弘之氏は、ムンバイ、ガザ、リオデジャネイロでの都市戦争(Urban Warfare)におけるガヴァナンスの問題に注目し、組織的暴力のアプローチを概念整理すると共に、ポスト構造主義の非暴力的アプローチ(到達不可能な非暴力を目指すことにより暴力的な政治を変えていく)を検証した。
 本報告ではまず、安全保障パラダイムに異論を唱えるガルトゥング(J. Galtung)の暴力概念類型が検証された。ベンヤミン(W. Benjamin)の『暴力批判論』における暴力の両義性(秩序形成/破壊、不正義状況の維持/打開)や、平和と暴力の普遍主義に内在する暴力(言説がもたらす暴力)を踏まえ、平和と暴力の相互連関と暴力の不可避性を指摘した。中でも「暴力」の言語論的転回に着目し、「暴力/平和」の言語の様態と概念性の系譜学的考察から「暴力」による集団的アイデンティティの形成を検証した。特に、ポスト構造主義の思想家ジジェク(S. Zizek)の分析によるスピーチ・アクト(遂行的発話行為)の言語の「本質化する」能力に注目した。こうした検証に加えて、批判的安全保障論(critical security studies, CSS)のケン・ブース(Ken Booth)らの安全保障化(securitization)にみる主体形成のアプローチから、脅威(他者)に対する相互不信、相互排他的アイデンティティの形成を指摘し、その排除的な論理に対する視座の必要性を示した。さらに土佐氏は、象徴的な暴力(言葉)と、マテリアルなシステム的暴力の連関を集団的暴力への重層的決定として捉え、主体形成に伴う不信の増大や他者の脱政治化から派生する暴力の拡散の問題を、「恐怖の政治」を下支えする構造機能の問題として捉え直した。
 以上を踏まえ、都市ガヴァナンスが崩壊した場所で拡散する暴力への対処には、脱安全保障化と政治化による排他的論理を超えた構造改革・解放(emancipation)(具体的には排他的ナショナル・アイデンティティに対抗する、排除された異質な語りの導入)を強調した。 

【議論の概要】
 討論では、汎アジア主義の捉え方とその問題(西洋と東洋の二項対立)について質問がなされた。散発的でクリミナルな暴力の解決の議論においては、basic income 論にみられるようにテクニカルな部分で富の再配分は実践されているが、地域的特性を踏まえた根本的解決には至っていないのではないかという指摘がなされた。さらにポスト構造主義における非暴力的アプローチの限界について、ナショナリズムが持つ排外主義(xenophobia)や国民国家権力を超える存在の有無、アイデンティティの境界の問題が問われた。これに対し土佐氏は、境界を脱構築していき、排他性を照射して解体し組み直すプロセスが政治化であり、問題解決に重要ではないかと指摘した。又、政治的無意識までに入っていく暴力とアイデンティティの関係としてタブーも注目された。最後に解放(emancipation)について、脱安全保障化、政治化との整合性が不透明な点が今後の課題として示された。 
 
■資料詳細 
 
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