「世界史におけるアフリカ経済史」
<第4班第1回研究会>
■報告者 :ギャレス・オースティン(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス)、北川勝彦(関西大学)
■開催場所 :龍谷大学 深草キャンパス 紫英館2階 第1共同研究室
■開催日時 :2009年4月18日(土)
■議事録番号 :090401
【報告の概要】
1.Gareth Austin (LSE) “Poverty and development in Sub-Saharan Africa; a historical perspective”

 報告は?アフリカ経済史の文献資料・研究の発展についてのレビュー、?最近の研究の傾向に関する議論、の2点について行われた。

 Austin氏は ?アフリカ経済史の文献資料・研究の発展についてのレビューの中でアフリカ経済史に関する文献を3つの世代に分類した。
 まず、1950年代から1960年代を「マーケット・アプローチ」の時期とし、この間研究対象としての関心はアフリカの植民地時代直近の過去にあり、奴隷貿易や労働史などに関してはあまり注目されなかったとした。またこの時期の代表的な著作としてW. Arthur. Lewisによる経済の二重構造、余剰労働についての議論や、Hla Myintの著作を挙げた。
 この時期は経済史学者を含む歴史学者たちがアフリカの農民や労働者の行動の合理性(rationality)を主張した時期であったが、Polly Hillによる著作を挙げ、合理性のみならずアフリカ人起業家たちの存在の重要性、特にココヤシの世界的な貿易においてアフリカ人が果たした革新的な役割についても言及した。

 次にAustin氏は1970年代を「従属論」の影響が強くアフリカの成長に関して悲観的な著作が多かった時期とした。また、Samir Aminなどを例に挙げ「生産論」(production theory)が特に西アフリカに関する研究に強く影響したとした。その中でも特にマルクス主義を汲むフランス人学者たちが1968年にモスクワに集まってアフリカの生産様式についての研究を行ったことを紹介し、このことがアフリカ大陸内での(マルクス経済学的意味での)搾取に関する研究の端緒となったと述べた。さらに、この間にアフリカにおけるジェンダー論や家計に関する研究も盛んに行われるようになったと指摘した。
 また氏は、1970年代は南部アフリカに関する研究に関し、特に歴史学者たちによってアフリカにおける過去の実質賃金は生存に最低限足りるほどでしかなく、さらにそれが労働市場への政治的介入によるためであったことが示されるようになり、二重経済論に対し懐疑的な議論が盛んになったと指摘した。また、南部アフリカにおけるアパルトヘイトは資本主義によって強化されたという議論も紹介した。

 3つ目に、Austin氏は1980年代から1990年代を「合理的選択論」、「制度派」の議論が盛んになった時期とし、Robert BatesやEasterly and Levineの著作について言及した。さらに、この時期は所有権やプリンシパル・エージェント問題、取引費用の議論が盛んになったとし、特にBatesの論の中心である「アーバン・バイアス」(urban bias)からEasterly and Levineらの論の中心である「民族多様性」(ethnic ‘fragmentation’) へ議論が移行したことを指摘した。また氏は、この時期のアフリカの歴史専門家たちはアフリカの政治や文化に関心を示す一方でアフリカの経済史にはさほど関心を示してこなかったことについて、残念なことであると述べた。

 以上のことに加え、Austin氏は西洋中心的な視点に関して杉原薫の議論を挙げ、また制度(institution)と経済成長の関連についても言及した。その中で、Acemoglu, Johnson and Robinsonのクロス・カントリー・データを用いた計量分析を取り上げ、その問題点についても議論した。

 最後に、?最近の研究の傾向に関する議論に関連し、Austin氏はアフリカ経済史を量的に分析する最近の研究として、1) 大西洋域における奴隷貿易 (Richardson)と1783年から1830年にかけての西アフリカにおける奴隷の実質価格(Lovejoy and Richardson)、 2) 西アフリカにおける大陸内奴隷貿易 (Austin)、3) 植民地時代におけるケニアのエスニシティごとの身長 (Moradi) といった3つの興味深いデータ例を挙げ、特に3)については参加者から質問や意見が出された。



2.北川 勝彦(関西大学)「経済史の立場からみた現代アフリカ経済―Economic History Review誌上におけるギャレス・オースチン氏の近業を中心に―」

 北川氏はオースティン氏の発表内容を踏まえ、アフリカ経済の過去の研究に関し、特に次のような論点をあげた。

?アフリカ史を研究する上で現地人の資料としてはどのようなものがあるのか。またどのような資料を用いるべきか。
  ・オーラル(口述)資料の存在も認められてきたが、そのような資料と研究対象をどのようにつなげるべきか。また、そのような資料をどのような観点からどのような手法を用いて分析するべきか(言語学、形質人類学、考古学、歴史地理学など)。

?グローバル経済史(Global Economic History)とアフリカとの関わりに関し、アフリカの「ローカル」のできごとと「グローバル」なできごとをどのようにつなげるべきか。
  ・アフリカ史の記述は、その自立性を強調すれば、差異性と孤立を強調してしまいかねず、その関係性を強調すれば西洋の台頭に支配される単線的な歴史過程の中でアフリカ史の特徴が埋もれてしまいかねない。
 
?「アフリカ史」と「アフリカ系人ディアスポラ」との関係性をどのように考えるか。
  ・アフリカ史の中で、アフリカは孤立した大陸ではなく、近代世界の重要な一部であったと考えられるようになった。

?アフリカにおける植民地支配についてどのようにとらえるべきか。また、前植民地期、植民地期、脱植民地期というこれらの3つの時代区分とその関連性をどのように考えるか。また、アフリカ(経済)史研究の脱植民地化についてどのようにとらえるか。
  ・前植民地期、植民地期、脱植民地期を異なる時代の流れとしてアフリカの過去を考えるのではなく、これらの3つの時代の間の「連続と変化」のパターンをあとづけることに関心を傾ける必要がある。
 
?アフリカ経済史の展開を理解し議論するために、どのような概念・用語を用いるか。また研究の中でどのような新しい用語を用いるか。
  ・アフリカの真の歴史についての理解を進めるために、また、アフリカ経済史の理解を深めるために概念と用語の革新(イノベーション)が必要である。



【議論の概要】
 主に最近の研究の代表的例としてAcemoglu, Johnson and Robinson (AJR)らの著作に関する議論が行われたが、参加者からは、アフリカ経済史における分析ツールや議論の変遷による研究への影響について質問が出された。また、AJRの議論ではアジアの植民地の歴史が説明できないのではないかというコメントが出された。さらに、(為政者による)レントの搾取と経済成長の関連について、レントの搾取というのは現在では経済成長を果たしたアジアの各国も含め、未熟な市場ではどこでも見られる行動であるのに、なぜアフリカでは成長が滞ったのかという疑問が提起された。最後に、1990年以降、現在の金融危機が起こるまではアフリカでも経済成長がみられ、脆弱ながら民主主義もみられる様になり、中国、韓国やインドといった国をはじめとして外部からの投資もあったという点が指摘され、Austin氏に対し、アフリカは経済成長に向かっていると考えているか、それとも悲観的な考えを持っているか、という質問が投げかけられた。
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