「西アフリカにおける国際的な薬物密輸」
<第4班第3回研究会 (龍谷大学社会科学研究所指定研究と共催)>
■報告者 :落合 雄彦 (龍谷大学)
■開催場所 :龍谷大学 深草キャンパス 紫英館2階 第1共同研究室
■開催日時 :2009年7月11日(土)
■議事録番号 :090403
【報告の概要】
 ナイジェリアを始めとする西アフリカ諸国では、すでに1980年代からコカインやヘロインといった不正薬物の密輸問題が顕在化していた。しかし、西アフリカにおける薬物密輸、特にコカイン密輸は近年急速に増大しており、その押収量も急増している。

 西アフリカにおけるコカイン押収量は00年には年間97キロにすぎなかったが、04年になるとその量は1.7トンに達し、06年には3.1トン、07年には11月末までの時点で6.4トンを超え、00年と07年を単純に比較すると、65倍以上に激増している。こうした西アフリカにおけるコカイン押収量急増の一因は、ヨーロッパ諸国の海軍などの「取り締まる側」の対策強化にあるが、その一方で「取り締まられる側」の要因、特に西アフリカで密輸されるコカイン絶対量の急増が見られる。国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime: UNODC)の推定では、南米から西アフリカに密輸入されるコカイン量は年間50トンに達し、その約8割(ヨーロッパで消費されるコカイン総量の約27%)がヨーロッパ向けに密輸出されているという。

 世界の主要な問題薬物を地域別にみてみると、北米はコカインと大麻、南米はコカイン、ヨーロッパとアジアはヘロイン、そして日本の場合は覚せい剤であるのに対して、アフリカは大麻である。大麻はアフリカのほとんどの国で生産されており、その多くが国内あるいは近隣諸国で消費されている。しかし、南アフリカ、ナイジェリア、ガーナ、モロッコなどで生産された大麻はその一部がヨーロッパ諸国へと密輸される。特に、これまでモロッコはヨーロッパ向け「ハシッシュ」(大麻樹脂)の生産地として知られてきた。しかし近年、ヨーロッパ諸国では大麻の室内水耕栽培が普及してきたことなどもあり、モロッコのヨーロッパ向けハシッシュ生産は減少傾向にある。それに代わり、アフリカ、特に西アフリカからヨーロッパへと密輸が急増しているのがコカインである。

 コカの栽培は、コロンビア、ペルー、ボリビアといった南米諸国で行われており、そこで密造されたコカインの多くは、少なくとも80年代まではメキシコやカリブ海諸国を経由して主に北米に密輸されていた。しかし、アメリカ政府による取締強化などもあって、90年代以降、北米でのコカイン消費量は減少の一途を辿っている。このようなアメリカでのコカイン消費の下落と半ば反比例する形で、ヨーロッパ諸国では近年コカイン消費が逆に増加傾向を示している。そして、そのようなヨーロッパ向けコカイン密輸の経由地として近年では西アフリカが注目されている。

 西アフリカに密輸入されるコカインの多くは、まずコロンビアからベネズエラに一旦運ばれ、そこから大西洋を越えてくる。その方法には大別すると、1)船舶を用いる方法、2)小型飛行機を用いる方法、3)「運び屋」が民間航空機の旅客としてコカインを空輸する方法の3つがあるが、1)の船舶を用いた海上ルートが多用される一方、3)の方法は必要な資金が少額ですむため、西アフリカ人のグループや個人によって好んで用いられる。こうしてカーボヴェルデ、ギニアビサウ、ギニア、セネガル、ナイジェリア、ガーナといった西アフリカの島嶼・沿岸部諸国に一旦密輸されたコカインは、最終的にはその8割程度がヨーロッパ諸国へと密輸出されるが、その際には「ボディパック」(運び屋がコカインを小分けにしてコンドームなどに詰め、それを口から飲み込み、民間航空機を利用してヨーロッパの空港税関を通過する)と、「ショットガン」(ヨーロッパ諸国に居住する西アフリカ人の運び屋を西アフリカに一旦移動させ、そこでコカインを渡して他の多くの運び屋と一緒にヨーロッパ行きの同じ飛行機に乗せ、一部の運び屋が摘発されている間に他の運び屋が税関をすり抜けるという、西アフリカ人犯罪グループ特有の密輸スタイル)と呼ばれる二つの方法で密輸が行われる。

 こうした西アフリカ経由のコカイン密輸の急増に対して、ヨーロッパ諸国側は西アフリカ沖での不審船摘発や国際空港での監視体制強化を図っている。西アフリカ諸国側も各国政府が薬物取締対策の強化を一応表明しているが、後者については、現時点でその実効性はあまり期待できそうにない。また、西アフリカ諸国の場合、たとえ政府上層部が薬物取締対策の強化を謳っても、それを末端で実施すべきはずの警察や税関などが腐敗していることが多く、その実効性には大いに疑問が残る。各国政府の薬物対策強化のかけ声とは裏腹に、西アフリカはいまもなお大小様々な薬物密輸グループが暗躍するヨーロッパ向けコカイン密輸の重要な経由地となっている。

 さらに、現在の西アフリカは、単にコカインの経由地であるだけではなく、すでにその世界的な消費地のひとつにもなりつつある。前述のとおり、西アフリカに密輸入されるコカインの多くはヨーロッパへと密輸出されているが、コカイン密輸に関わる報酬は現金ではなくコカイン現物で支払われることが多いため、そうした報酬として支払われたコカインの一部は西アフリカ域内で売却・消費されてしまう。 

 90年代の西アフリカでは、シエラレオネ紛争を始めとして複数の内戦が発生した。そうした冷戦後の武力紛争の嵐がようやく一段落しつつある西アフリカではいま、コカインという「凶器」をめぐる新しい戦争が始まりつつあるようにみえる。

【議論の概要】
 密輸手法の呼び方、密輸の方法などについての質問がいくつか出された。また、アフリカにとってみれば麻薬の密輸は中継貿易になるが、アフリカに利益は落とされているのか、といった質問が出された。また、ディアスポラ・不法移民との関連、ルート(コモディティ・チェーン)などに注目することも興味深いのではないか、といったコメントがだされた他、薬物が受容される社会状況へ目を向ける事の重要性が指摘された。
■資料詳細 
 
このページを閉じる