「1990年代民主化期タイにおける森林消失の政治的メカニズムからの敷衍 ― 熱帯林消失要因の精緻化とREDDへの懐疑 ―」
<第4班第4回研究会>
■報告者 :倉島 孝行 (京都大学東南アジア研究所 研究員)
■開催場所 :龍谷大学 深草キャンパス 紫英館2階 第1共同研究室
■開催日時 :2009年7月18日(土)
■議事録番号 :090404
【報告の内容】
 倉島氏の今回の発表の目的の1つは、熱帯林消失要因のより精緻な構図を示すことであった。
 これまで最も精緻な形で熱帯林の消失要因を提示していたのは、同要因を「直接要因」と「背景要因」との相互作用として捉えた研究だった。これに対し、氏が示したのは、そこにさらに「背景的要因の背景要因」なるものを加えた構図である。この「背景的要因の背景要因」とは、具体的には政治体制を意味する。熱帯林を有する国々は多様な政治体制を有している。したがって、その点を組み込んだ構図・メカニズムを考えない限り、現実のリアリティを捉えきれないというのが、氏の主張であった。また、氏は、こうした複数国を対象としたもの以外に、一国の経た政治体制の変動過程を、「背景的要因の背景要因」に組み込んだ構図を提示した。そして、実際に氏は、1990年代のタイを例に、その具体的な展開像を示した。その概要は以下の通りである。
 1990年代タイの土地利用は、国全体としては定常状態に入りつつあった。しかし一方で、辺境の多くの県ではいまだに森林の耕地化、消失が見られた。氏は、1990年代民主化期のタイで確認できたこうした土地利用変化の要因・メカニズムを、民主化以前の歴史を踏まえ、政治的な観点から明らかにした。特に国有林域内に広く残されていた不法農地をめぐる政策・政治展開に着目し、都市と農村双方での攻防から読み解いた。
 有力大政党による用意周到な政策利益の追求、占有農民による政治的・政策的な攻勢に乗じた開発行為、管轄官僚組織による巧妙な権益の確保、1990年代民主化期タイでの森林の耕地化とは、ひとことで言えば、こうしたものの所産とされた。ただし、このような動きの前提として、政策的な利益誘導、耕地の外延的拡大、管轄域への執着など、各主要アクターの再生産・拡大再生産様式の持続と、国有林域内不法農地問題自体の存続といった点の重要性も強調された。つまり、1990年代以前から広くあった、もしくは1990年代以前までの攻防の中で形成・維持されてきた前提的要素の持続・存続の上に、民主化に伴う各主要アクターの適応的・対応的な動きが起こり、それが森林の消失に繋がった、というのが倉島氏の言う「1990年代民主化期タイにおける森林消失の政治的メカニズム」の解釈である。
 なお、表題中にある「REDDへの懐疑」という点は、時間的な都合から今発表では割愛された。


【議論の概要】
 参加者からは、1960年代のサリット支配下における軍事政権は、なぜ欧米から森林法などを取り入れ、広大な面積を「森林地」として強権的に保護・指定する必要があったのか、という質問が出された。これに対しては倉島氏から、軍事政権がFAOによる「タイは、国土の半分ほどが森林地であることが適切である」という勧告を真に受けたのだ、という回答が出された。
 また、タイの農民が国有地である「森林地」に入植していった背景には、入植しやすい条件、あるいは違法に土地を斡旋・売買する業者などの存在があったのではないか、という指摘がなされた。
 さらに、同様に森林消失が起きていたインドネシアの例を挙げ、1997年からのアジア金融危機以降、インドネシアでは民主化にともなう地方分権化や直接選挙の導入がみられたが、特に地方分権化によって、県レベルで森林が管理されたのと同時に、地方選挙に際しての汚職・森林に関する権益の不正売買が起こり、森林消失に拍車がかかったという点が指摘され、民主化のみでなく、地方分権化にも目を向けるべきであるというコメントが出された。
■資料詳細 
 
このページを閉じる