「秩序構築における法と和解の関係性 ― アフリカにおける移行期的正義を素材に ―」
<第4班第4回研究会>
■報告者 :佐藤 量介 (アフラシア平和開発研究センター 第4班公募研究員)
■開催場所 :龍谷大学 深草キャンパス 紫英館2階 第1共同研究室
■開催日時 :2009年7月18日(土)
■議事録番号 :090404
【報告の概要】
 報告は、南アフリカでアパルトヘイト廃止後に設置された真実和解委員会(Truth and Reconciliation Commission: TRC)を具体例として、紛争後社会における秩序構築と「和解」の関係を、法的(法社会学的)視点から分析した。
  
 まず、佐藤氏は、南アフリカTRCが真実の告白と恩赦の交換を行うという目的で設立されたという点を紹介した上で、「和解」とは、「赦し」と明確に区別される、政治的・社会的機能を備えたものであるとし、TRCも、その一事例である点を指摘した。さらに、法秩序という観点において、法の機能は一次(社会統制・紛争解決)と二次(教育的効果・規範意識醸成)に分けられるとし、南アフリカの司法機関とは別個に設置されたTRCは国民和解を目的としており、そこではこの二次機能である「真実究明」に重点が置かれていたにもかかわらず、結果的には国家レベルでの「和解」取組という側面が「下からの秩序構築」に対し優位になってしまっていたと指摘した。

 TRCの主な目的は、国家全体としてアパルトヘイトの傷を癒すこと、すなわち国民和解であった。具体的には、公聴会での被害者の語り・記録化を通じ、被害者が公的に承認されるプロセス、あるいは罪責の告白や公開を、恩赦を得るための交換条件とすることで加害者としての公的承認を行うプロセス、そして、紛争後社会に復帰し社会の一成員として公認されるための「負債」または「制裁」を課すプロセスであった。また、TRCを通じて被害者への補償が行われたが、これは失われた状態の回復・不正な結果の是正、資源分配システムとしての法システム、すなわち配分的正義の実践であった。
  一方、TRCにおいては公聴会での被害者の「語り」や加害者の「告白」、あるいはTRC報告書の公表が行われることにより、「真実」が公的空間へ浸透し公衆意識へ影響し、歴史についての共通認識が醸成されることが目的とされていた。これらは法システムの二次的・潜在的機能であると考えられるが、TRCではこれが主要な任務・目的に位置付けられており、このようなプロセスが個人レベルの体験・記憶が社会レベルへと上昇していく「下からの秩序構築」の構図となり、TRCにおける重要な特徴となるはずであった。しかし、実際には「和解」における社会的機能に組み込まれたことから、政治的力学・社会化圧力を反映してしまうというパラドックスが生まれた。

 このようなパラドックスが生まれた理由として、佐藤氏は「和解」の政治性・社会性の帰結としての国家レベルでの秩序構築の強固さ・力学との連動に着目し、実態として「下からの秩序構」には、それを支持・強化する社会機能が伴っていなかったと指摘した。またその一方でTRCの「真実」の共通認識化の取り組み自体には、ローカルなエンパワーメントや一次的な社会的機能が伴っておらず、その意味で、「国民和解」の実体である「上からの秩序構築」は、「下からの秩序構築」に優位することにならざるをえなかった。つまり、全体として「ネーション・ビルディング」の枠内での営為であり、それを超える、または質的に組み替えていくような「下からの秩序構築」とまでは到っていなかった。


【議論の概要】
 Transition justice「移行期的正義」という概念は、歴史的・政治的にどのような文脈で用いられるようになったのか、また南アフリカでのTRCのモデルとなったような西欧での歴史などはあったのか、また「移行期」というのは何から何への移行なのか、「移行司法」とはいったい何なのか、といった質問が出された。その他、アパルトヘイト後の南アフリカは、民主化されたが、現在でも白人社会と黒人社会は分かれており、TRCは国家全体としての和解としては意味があるが、その中におけるコミュニティレベルの「和解」に関しては、他のアフリカの国々と南アフリカでは状況が異なるのではないか、といった指摘が出された。
■資料詳細 
 
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