「老人介護施設における外国人介護労働者の受け入れ制度・政策:シンガポールと日本のケース」
<2008年度 第3班 第3回研究会>
■報告者 :マリア・レイナルース・D・カルロス(龍谷大学国際文化学部准教授)
■開催場所 :龍谷大学瀬田学舎 智光館地下B103-4共同研究室
■開催日時 :2008年10月10日(金)15:00-17:30
■議事録番号 :081010
【研究会の趣旨】

 1990年代以降、グローバル化の進展とともに、途上国から先進国への看護師、介護労働者の国際移動が増加した。その背景には、先進国における医療拡充政策の採用や少子高齢化などの人口学的な変化に伴う医療、ケア労働者に対する需要の増加がある。本研究会の目的は、受け入れ国(シンガポール・日本)・送り出し国(フィリピン・南アフリカ)両側の視点から医療専門職の国際移動の現状を明らかにし、それぞれの国の移民政策・介護政策のあり方について検討することである。

【報告の概要】

 カルロス氏は、外国人介護労働者の受け入れ国として、シンガポールと日本を事例に、両国の受け入れ制度・政策の比較を行ない、それぞれの特徴と問題点を明らかにし、互いに見習える点を検討した。

 カルロス氏によれば、シンガポールの外国人介護労働者雇用システムの特徴は、政府の強い規制・管理の下で、民間施設間の競争が行われている点である。政府は、外国人介護労働者の導入によって、介護労働力不足を解消するのみならず、施設に対して「外国人雇用税」を課すことで、これを大きな収入源としている。施設側にとっては、外国人の雇用コストは安くはないものの、柔軟な労働力としてメリットがある。外国人介護労働者側にとっては、施設による「推薦」があれば、研修や資格取得によるキャリアアップや給料増への道が開かれているが、一方で、「推薦」の有無に縛られたり、シンガポール人との結婚・同居・妊娠が禁止されている点など、人権の観点から課題もあるとカルロス氏は指摘した。

 日本においては、2008年7月の経済連携協定下、外国人介護労働者受け入れ制度がスタートした。その特徴は、日本政府が外国人の受け入れの目的を「人材育成のための援助」としている点である。施設側にとっては、労働力不足の解消が期待されつつも、外国人受け入れのための膨大な費用負担や文化摩擦が懸念されている。外国人介護労働者側にとっても、最終的に日本の国家資格試験に合格しなければ帰国を余儀なくされるという厳しい条件や、具体的な業務内容が雇用契約に明記されていないという問題などがあるとカルロス氏は指摘する。
シンガポールと日本の共通課題としては、利害関係者間のコンセンサス作り、政府と民間の役割分担と連携、外国人労働者の人権保護、正確な情報の提供が挙げられる。その上で、日本がシンガポールのケースから見習うべき点は、業務内容の具体化と指揮系統の明確化であるとカルロス氏は述べる。そして外国人を「安価な労働者」としてみなすのではなく、「安定した質の高い労働供給源」として捉え、付き合っていくべきであるとカルロス氏は締め括った。

【議論の概要】

 議論は、シンガポールと日本の比較をめぐって展開した。

 第一に、日本が様々な点で「曖昧な」形で外国人を受け入れるのに比べ、シンガポールは一見合理化・効率化された制度に見えるが、推薦制度によって、雇用主が推薦の与奪を極めて恣意的に利用する余地を残しているため、シンガポールもまた外国人介護労働者を脆弱な立場に置いているのではないかという疑問が提起された。これに対し、カルロス氏は、外国人介護労働者が「推薦」を得るために、「施設長の気に入られる」ことが必要なケースを挙げ、これが外国人介護労働者にとって「拘束」であることを改めて強調した。

 第二に、シンガポールがある意味でわかりやすい「効率的な」制度であるのに対し、なぜ日本においては、利害関係者のコンセンサス作りに特に困難があり、表向きは「援助」であるという姿勢を維持し続けるのか、という疑問が提起された。これに対し、カルロス氏は、日本社会・文化特有の理由がありうると答えた。また、曖昧さを維持することによって労働力供給の柔軟性を高めている可能性があるのではないかとの指摘もなされた。
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